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2024年1月

漱石

三四郎

うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに頓狂とんきょうな声を出して駆け込んで来て、いきなり肌はだをぬいだと思ったら背 […]

漱石

坊ちゃん

 親譲おやゆずりの無鉄砲むてっぽうで小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰こしを抜ぬかした事がある。なぜそんな無闇むやみをしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新 […]

あさひ

おらぁ、猫だ。【吾輩は猫である】

夏目漱石の吾輩はねこであると現代版猫にさせてみた。

漱石

硝子戸の中

硝子戸ガラスどの中うちから外を見渡すと、霜除しもよけをした芭蕉ばしょうだの、赤い実みの結なった梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てるほどのものはほとんど視線に入って来 […]

漱石

元日

 元日を御目出おめでたいものと極きめたのは、一体何処どこの誰か知らないが、世間が夫それに雷同らいどうしているうちは新聞社が困る丈だけである。雑録でも短篇でも小説でも乃至ないしは俳句漢詩和歌でも、苟いやしくも元日の紙上にあ […]

漱石

イズムの功過

抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面きちょうめんな男が束たばにして頭の抽出ひきだしへ入れやすいように拵こしらえてくれたものである。一纏ひとまとめにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫おっくうになったり […]

漱石

変な音

うとうとしたと思ううちに眼が覚さめた。すると、隣の室へやで妙な音がする。始めは何の音ともまたどこから来るとも判然はっきりした見当けんとうがつかなかったが、聞いているうちに、だんだん耳の中へ纏まとまった観念ができてきた。何 […]

漱石

倫敦消息

(前略)それだから今日すなわち四月九日の晩をまる潰つぶしにして何か御報知をしようと思う。報知したいと思う事はたくさんあるよ。こちらへ来てからどう云うものかいやに人間が真面目まじめになってね。いろいろな事を見たり聞たりする […]

漱石

落第

 其頃東京には中学と云うものが一つしか無かった。学校の名もよくは覚えて居ないが、今の高等商業の横辺あたりに在あって、僕の入ったのは十二三の頃か知ら。何でも今の中学生などよりは余程よほど小さかった様な気がする。学校は正則と […]

漱石

明暗

医者は探さぐりを入れた後あとで、手術台の上から津田つだを下おろした。「やっぱり穴が腸まで続いているんでした。この前まえ探さぐった時は、途中に瘢痕はんこんの隆起りゅうきがあったので、ついそこが行いきどまりだとばかり思って、 […]